昔の家は20年以上もかけて建てていた

今は新築戸建が数か月で建ってしまう時代。注文住宅から分譲まで様々な選択肢もあり、『家を持つ』ことが身近に感じる印象があります。

筆者が古民家巡りをした中で一番古かった家の竣工は明治。その時代に家を一つ作るのにかかった年数は、なんと22年。

そんなに当時建てるのが大変だったのかと思いきや、そのうち20年近くは材料集めに費やしたそうです。

実際の施工は2年ほど。

江戸時代には、建築における様々な制約がありましたが、明治にはそれらがなくなって、がっちりとした大きく立派な作りが増えたそうです。工期の長さはそんな理由も絡んでいそうです。

当時は現代レベルですぐにトラックを手配することができなかったはずですし、便利な道具もありません。自分の足で歩いて『この部分に適切な木材はないかな~』と色々イメージしながら探すわけです。

見つかってから材料を運ぶのも一苦労。

山で木々を集めて持ち帰るときは、円形の束にして、脇に藁で作った紐を繋げ、転がして持ち帰ったり、長く大きなものはお手製の台車のようなものに乗せて汗水たらして持ち帰る。

家を作るという事は命がけといいますか、今以上にものすごく大がかりなことだったと思います。

とある古民家の屋内に、当時の施工中の写真が飾られていましたが、足場が丸太。それに何十人も登って、おのおのポーズを決めて写っていました。

丸太を足場代わりにしていたことはこれまでお会いした職人さん方に聞いてはいましたが、丸太と丸太を結んで作られている単純なものなのに、そこに職人さんから幼子を抱えたお母さん、そしておばあちゃんまで20人も30人も一気に足場に乗っても崩れない丈夫さにびっくりしました。

結び方ひとつから材料集めまで、職人一人一人の経験と気持ちがこもっている感じがして、とても重みを感じた一枚でした。

はたから見たら簡単そうに見えることでも、実際に自分でやってみると全然うまくいかないことって多いと思います。簡単そうに見えたり、短時間で終わるのはなぜなのか?

単に手を抜いているからではなく、そこには経験値と腕があるから。そして、色々ある中で職人が『選択』をするのは、一つ一つ理由があるからで、様々な可能性を考えて一番最適な答えを導き出せるから。

理由があるからその材料を選び、理由があるからその提供をする。

職人の仕事は実に緻密で、奥が深いものだと常々感じます。そして、昔からの経験と腕、引き継いできた歴史があるからこそ、その情報を使って規格ができて、よりスムーズに物を作れるようになっています。

便利とは言えない時代を生きた人々の知恵はとても興味深く、頭が上がらないような事ばかりです。