ある個人事業主のお話

ある人で、アルバイトとして入社し、週に2,3回ほど働きに来ている人がいました。以降Aさんと呼びます。あまり自分から話すタイプではなかったですが、聞いてみるとどうやら個人で経営をしているとのこと。フルでバイトをしている人は、物珍しそうにしており、『どうせ仕事がないからバイトしに来てるんだから、舐めてかかって大丈夫だろ』『仕事ないのに経営とかバカじゃねぇの?』『俺のほうが経営わかってるから代わりにやってやるよ』『ちなみに売り上げいくらよ?は?少なすぎでしょ、やってて意味あんの?』など言われたい放題。それでもAさんは低姿勢でひたすらに仕事をまじめに続けていきます。

反論を一切しなかったので、周りはどんどんエスカレートし、次第にバイトとは関係のない、Aさんの本職についても口を出してくるようになりました。勝手に知り合いに『仕事を探している奴がいる。きっと安い金額でもやるだろ』などと話を進め、Aさんには断りなく契約をしようとしてきたり、何を考えているのか、とにかく話を一方的に進めようとしました。

もともとそのバイト先でのAさんは人に合わせるタイプの性格だったこともあり、強く言えばなんでもいうことを聞くと思われていたようでした。

Aさんはここでついに動き、バイトの先輩などは通さずに直接社長に退職したいと申し出ます。バイトでは一切愚痴も言わず、手配内容に文句も言わず、かといって媚を売るわけでもなくひたすらまじめに働いており、依頼元からいい評判を聞くことも時たまある人材。社長は引き留めてくれましたが、Aさんの気持ちは決して揺るがず、結局退職しました。ただ、使ってくれたこと、雇い入れてくれたことに対しては本当に感謝していると社長に伝えました。

翌年、バイト先にAさんから連絡があり、仕事の依頼をさせていただきたいとのこと。『値引きは一切せず、正規の金額でお願いいたします。』結局2日分の仕事の依頼をし、すぐに入金も済ませました。

初日に来てくださった人は、『こういう依頼ならまたやりたい!おいしい仕事だし』など乗り気。依頼はスムーズに進み、滞りなく完了しました。それ以降、元バイト先の人からメールが届き、直接仕事が欲しいというような連絡もありましたが、スルーするか丁重にお断りをさせていただき、今現在はどうしているのか。その後戸建てを購入し、自由に暮らしています。ブランディングも定着しつつあり、仕事の取り方や客層に関しても大きく改善しています。

このAさんは、どのような考えでバイトをし、働いていたのでしょう。

独立して6年。日々研究をし、強度や材料について深く調べていました。作業的にはほかの業種に比べて表面的な作業ということもあり、修繕個所の内部がどうなっているのかなど、構造についてはあまり詳しくなく、実際に自分の目で見て触ってみたいという思いから、それらが見れる職種にバイトとして入社します。もちろんバイトをして家計の足しにしたいという理由も少なからずありましたが、せっかくやらせていただくなら意味のある働き方をしたいと考えたのです。

バイトや派遣で働いてきた経験はそこそこあり、これまで心無いことを言われることも多かったので、ある程度耐性はあったものの、何も感じないわけはありません。まして本職についてわかったようなことを言われるのはもってのほか。勝手に話を進めるなどありえないことです。Aさんは仕事の取り方や提供方法にとてもこだわりがあり、それ以前から経営をしていく中でブランディングがいかに大切かを身をもって体験していました。だからこそ、仕事量が少なくなろうがブランディングを保つためにバイトをして、本職を妥協しないように工夫していました。バイト先で威張りたいから経営者をしているのではなく、本当に必要であり、勉強させていただくためにバイトをさせてもらっていたのです。

実際の本職での実力がどのくらいなのかというと、自身のホームページやサイトからの受注、腕がいいからと業者個人問わず様々な形で依頼を受けています。うちを使ってくださいという営業は一切せず、ほかの業者と比較検討していただき選んでいただいたり、直接問い合わせをいただき受注につなげるスタイルです。とあるブログで紹介されたこともあります。この働き方ではそもそもいつ依頼が来るのかなんてわからないため、一週間が現調ばかりになることもあれば、入金が遅い依頼が重なることもあります。仕事が数日はいらないことなんてザラです。ブッキングしないよう慎重に仕事を組み合わせることも必要だし、なおかつ一定の稼ぎも必要になります。

何割かの人がどこかのお抱えになりたがるのは、このような問題を考えなくてすむし、一定の入金が見込めるからですが、そうなると自身のブランディングとはかけ離れたものになるだけではなく、空いている日があるから別の仕事を入れたのに、前日になって『すぐに来い』と言われるなど、予定のめども立たなくなります。結局効率よく仕事を入れることはできず、お抱えに振り回される仕事の取り方になってしまい、なおかつどんどんいいように使われるだけでいいことがありません。仕事を安易に増やすこともできません。かといってその業者が生活するのに十分な仕事をくれる保証もない。腕で勝負している人にとってはお抱えは邪魔でしかないのです。とはいえ、こちらの要求に合わせてもらうということは、それだけ腕が求められているということでもあります。腕がなければこんな働き方は通用しません。はたから見たら腕がないからこんな働き方なんだろ という働き方が、実はとても難しく大変なことなのです。

短期的な目線で考えればどんどん仕事を受け、とにかく売上だけにこだわって仕事を受けていけば、数字は上がるでしょうが、それが果たしてどのくらい続くのか?仕事は何でも受ければいいというわけではありません。個人事業主は誰も助けてくれない立場。自分のことは自分で守らなくてはいけません。仕事を選び、どの仕事をうけるのか。そういった目利きも非常に大切なのです。しょうもない業者と取引しても、すべての尻拭いを押し付けられるだけです。腕が良ければ必要ないことを、腕が悪いために仕事が増え、それを1人工でAさんにすべてやらせようとしたら、Aさんには得することはあるのか?Aさんのバイト先で勝手に話を進めようとした人は、おそらくAさんがどういう事業をしており、どういったことをしようとしているのかを全く調べず、聞くこともせず話を進めようとしたことから、使い勝手がいい奴隷を探していただけでしょう。そもそも取引先を作るというのに、一方的に話を決めるなど失礼すぎます。そんな流れもわかっていない会社は長くは続かない。相手にするのも無駄なのです。案の定、ちょっと調べたら登記して間もない会社でした。逆に経営に関して何もわかっていないからこそ、経験値が違う相手に対しても失礼な態度をとれるのでしょう。すべて見透かされていることに気付いているのでしょうか。

そして、やめてから依頼をしたことに関して、『おいしいからまたやりたい』という返事に対しても、Aさんは非常に違和感を感じています。まず、知り合いで仕事をあげたいから『恵んでいる』わけではありません。もちろん恩を返す意味も含めての依頼ではありますが、本当に必要で、この会社ならしっかりやってくれると思ったから依頼しているのです。もちろん壊したり傷をつけられたらきちんとお話し合いをしなければなりません。そういったことをきちんと対応してくれる会社に依頼をしているのであり、だれかれ構わず依頼をしているのではありません。その点少々このバイト先は理解が足りていないように感じます。要は舐めているのでしょう。

バイト先で仕事に繋げられたら、それはそれでいいことなのかもしれませんが、結局は依頼元からすればバイトの人間という風にしか見られないと思ったほうがいいでしょう。ブランディングを意識した経営からはずれると思ったほうがいいです。結局は良いように使える便利な人間という立場になるだけです。

バイト先の人間からは言いたいことを言われ続けていましたが、このようにAさんにはAさんの考えがあって働いていたのですが、まず理解はされませんし、望まないほうが楽です。理解してくれるまで言い続ければいいという人もいますが、揚げ足とるだけできちんと話も聞かず、どうせ盛って話しているだけだろという人間に対して、時間を割き、労力を使い説明して差し上げる意味は果たしてあるのか?バイトしながら経営するなんて楽な働き方だと思っている人もいますが、このような偏見に耐えながら続けることはできるでしょうか。それでも文句も言わず、ある程度のところで一気に身を引く。これが最善かもしれません。

腕がないからバイトしなきゃいけないんだ、1週間の予定が埋まらないなんて下手な証拠など、凝り固まったものの見方で決めつけるのは、もう時代遅れではないかと思います。副業も可能になってきている今、様々な働き方ができ始めています。所詮経営者と雇用者では考え方に差が出るのは致し方ないことではありますが、偏見ばかりで人を常に見下している人は、今後どんどん淘汰されていくでしょう。

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