値段交渉に対する勘違い

業者間やお客様とのやり取りの中で、頻繁に出てきているであろう値段交渉。必要なことだとは思いますし、理解できなくはないのですが、単純に数字を上げ下げすることが交渉だと勘違いしている人が非常に多い印象です。

  • 他の業者よりも高いようですが?
  • キリよく¥3,000値引きの¥○○○なら依頼しますよ
  • どうせ材料は他の会社と同じなんですよね?なのになぜ価格が高いんですか

など、言い出したらキリがないほど、言いたいことをぶつけてきます。

まず、他の会社と比べられても無意味ですし、そういったことを聞く時点で本来はおかしいのです。結局使用している材料も会社によって様々であり、どんな提供方法なのか、サービスの内容はどのようなものなのかなど、施工以外のことも含めて金額は出されています。提供方法が異なるのに全ての会社が同じ価格になるわけがないのです。

お客様から見たときに、少しでも価格が低くなればと思うのは当然のことだと思います。実際にどのようにして金額が出されているのかもわからない人がほとんどだと思いますので、そのため疑問を持つというのは普通の感覚であると思います。

問題はそう言われた場合の業者側の対応なのです。値引きに応じるということは、お客様からさまざまな印象を与えてしまうことになります。

  • 簡単に値下げしてくれたな、結局見積もりは盛って出しているのだな
  • 仕事が欲しいから言えば下げてくれるんだ
  • 自分の会社を選んで欲しいから、他の会社を引き合いに出せば応じるだろう

確かに仕事がなければ業者側の生活もままならなくなり大変ですから、時には多少飲まなければならない面も出てくるとは思います。それがわかるから、依頼する方も強気になってしまう。結果としてあり得ない値引きでも応じてしまうという悪循環に陥ってしまいます。

値引きしても十分に賄えるのであれば問題はないと思いますが、恐らく問題ないと思っている人の方が少ないでしょう。お客様も騙されたくないと思うから色々聞いてきますが、業者としても『他は安いって言ってるけど本当なのか?証拠もないのに』って話なのです。そのような質問に対し、『材料など比較した上でお返事させていただきたいと思いますので、その安い業者の使用材料、提供方法を教えていただけますでしょうか』というと、たいてい連絡がこなくなります。そこまで深く考えてはいないのです。

そもそも、どんなことにいくら経費がかかり、材料以外でどのくらいの金が掛かっているかなど、細かく算出していれば『もし値引きするとしてもこれ以上はあり得ない』『バカにするな』と思うはずなのです。結局安易に決めた金額だから安易に値引きしてしまう。お客様に請求する金額で無駄な金なんて含まれていないはず。よくネットで調べると『値引きはするべからず』という文言が多く出てきますが、『しないように』ではなく『したくない』と自然と思うはずなのです。

仕事が欲しいから数字的に下げて提供するのか、価格を下げるためにこの工程や材料を省くことで価格を抑えられますと提案するのか。どちらも数字的に抑えることのできる方法ですが、どちらがより具体的で建設的か。値引きを要求された時の対応で、その仕事に対してどれだけの覚悟があるのかもわかってしまいます。

ほとんどの場合、値引きした側はリスクや仕上がりはそのままで求めてくるケースになると思っておいた方がいいです。要は『値引きしてくれた!有難う、じゃあしっかり仕事してね』ということです。これで別に業者側が特に問題を感じないのであればいいですが、金額が下がっているのにリスクや責任が同じくらいに下がるわけではないということは肝に銘じておくべきなのです。『じゃあ値下げしたのだから多少は融通利いてもらえるな』と思っていても、そうはいきません。ましてや個人のお客様からの直接の依頼の場合、誰も助けてはくれません。結局何かあった時に痛い目を見るのは自分自身なのです。

そういった責任を全て背負いながら、言われたままの値下げをして本当に大丈夫か?値引きするにしても、そう考えながら結論を出すべきなのです。

組織だった会社の営業担当などが交渉をする際に数字だけで判断するのはまだ分かりますが、個人事業主は個人プレーでやりくりしている人がほとんどだと思います。ということは、施工の内容、経営、全てのことを把握できるはずですし、把握しやすい立場だとも思います。責任の重さ、施工スキル、サービス、施工方法など全て考えた上で価格を下げたいのであればどのような内容になるのかを提案する。これが本来の交渉であると考えます。

自分で実際にやってみなければわからないかもしれませんが、値下げをしてでもとにかく数を稼げばいい!と思っている人はやってみればいいと思います。そしていつか依頼先で『値引きしてあげたのに仕上がりはどんどん求められてどういうことだ!』と苦しむ状況になり、そこから今後どのようにしていけばよいかを考えても遅くはないと思います。事業を続けていくと、みんな『どう提供していくべきか、どういうスタンスで進むべきか』を考える時期が必ずあると思います。そう感じた時、軌道修正するのかどうするのか決めればいいのです。

安さを売りにするのも値引きに応じて顧客満足を図るのも立派なブランディングであると思っています。ただ、自分自身が辛くならないよう、提供内容も具体的にお客様にわかりやすく提示しておくのがいいかと思います。この『提示』することがブランディングとなり、自分が本当に欲しい依頼がきやすくなる可能性が高くなると思います。

文章ではいくらでも綺麗事が書けますから、納得できない人も多くいるでしょうけれども、そのようなことも含めて悩み考えるのが経営者の使命だと考えます。

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