金額を決めることとは、いくら取れるかではなく、その金額ですべての責任を背負うということ

別ページで書いた『個人客は金額盛って出せるからおいしい』と言う人についての話と多少かぶりますが、見積依頼があった時、皆さんはどのように金額を決めているでしょうか。

『こんなもんかな』『いや、もっと乗せていいっしょ』など、いくら取れるのかというところで金額を出そうとしている人が少なくないようでしたので、今回はこの件を題材に選びました。

雇用されているのと同じ感覚で考えてしまっているから『おいしい仕事』だと錯覚してしまうと以前お話ししましたが、お金をいただくということがどのようなことか考えたことはあるでしょうか。

自分で経営していれば確かに金額も自分で決めることはできますが、決めた金額で施工をするということは、『起こりうるすべての責任を負う覚悟の金額』であるのです。お客様にとっては『この額を払えば、きれいに完成されたものが出来上がる』そう信じて依頼をしてくれています。依頼をする立場なのか、される立場なのかによって、同じ金額でも思いが全く異なってくるのです。

見方を変えれば、どれだけ技術的に難しく、だれでもできることではない仕事だから値段は高くしたいと思っても、お客様が『価値無し』と判断すれば、そのお客様にとってはその仕事は価値がないということです。

職人にとって価値あることだと思っていることでも、お客様にとっては同じように価値があると感じてくれるとは限りません。だからこそ金額を決めるということは難しいのです。施工スキルだけではなく、様々な労務や経費も考えたうえで出しているのに、『仕上がりが金額に見合わない』など問答無用で言われます。職人や経営者にとっては理解できることも、表面的なことでしか判断できないお客様はそう感じてしまうのです。当たり前です。お客様から見れば、金額=仕上がりの良さ なのですから。

逆に安くすれば依頼も来るだろうと安易に考えて、他者より安い金額で提案するとどうなるのか。

  • 仕事がないから値下げしてる=下手な業者なのだろう
  • 微妙な仕上がりで終わらせるつもりなのでは?
  • 逆に物を壊されたらどうしよう

という不安から依頼を渋ることも多くあります。お客様も不安なので、はなから疑ってかかります。それをどのように納得いただき依頼につなげるのか。それは至難の業です。ここ数年でネットからの受発注は定着しつつありますが、まだ怖がっている人の方が多くいます。そのようなお客様から依頼をもらうための『安さ・値下げ』は果たして意味はあるのか?

安い金額だと、決まって言われるのは『それくらいなら自分でもできる』ということ。あまりに安いとこうした問題とも直面します。ここまでくると、商売として続けていいのかという根本的な問題も考えなくてはいけません。

こんなことがあると、改めて金額とはどう決めるべきなのか、金額に対してどのような提供をすべきか考えたくなると思いますし、考えるべきだと思います。外注や決まった金額で仕事を受けている人は、そもそもその金額の中にどのようなものが含まれていて、材料も細かく算出するとどの程度かかっているのか、その他維持費はどのくらいかかっていて、その分いくらこの金額に含まれているかを考えている人はおそらくかなり少ないはずです。でも、そのようなことも考えていかなければ自分で金額は出せないし、そもそも経営の維持も難しいのではないでしょうか。

取引先から一定の仕事をもらっている人は、結局そこまで仕事を取ることに執着しなくても仕事にありつけるため、あまりそのようなことを考えない傾向にあります。言い方を変えれば経営はほとんど依頼元に任せている状態です。これはかなり危ないと思います。事業融資も取引先が1社のみだと断られる可能性が高いと銀行の方もよく言っていますが、1社しか取引先がないということで、その会社が何かあったり、切られたらたちまち経営が立ち行かなくなるのではないのかという判断を下されます。事業としてはよろしくないという見解のようです。

逆に、そこまで安定していなくても、個人のお客様や様々な業者との取引があると、どこか1社に切られても他で賄える可能性が高いという評価をされるようです。銀行的にはこちらの方が印象がいいとのことでした。

話が脱線しましたが、施工をし、お金をいただくという一見単純なことですが、施工をし、お引渡しする一連の流れで発生しうる責任を背負っている立場です。その責任を例えば雇われている時と同じ金額で決めていいのか?もし何かあってもその金額や手持ちから捻出できるのか?安易に決めず、ある程度自分の中で定義付けをし、金額の算出方法を決めていかないと、結局自分が苦しい思いをすることになるのではないかと思います。逆に雇われている立場の人も、なぜ売り上げから会社の分として持っていくのかもこれで理解できるのではないでしょうか。

安くしたからといって、すべてのお客様が『安いから仕方ないね』とは納得しないと思います。『連絡していた時にはそんな説明受けていない』と、詰めてくる人は問答無用で詰めてきます。そういったこともあるから、きちんと自分で決めて金額を出すべきだと思います。金額の中に含まれる提供方法、仕上がり、保証などについてなどの説明ももちろん必要です。

こうやっていろいろ考えて金額を出していると、安易な値引きもきちんと断れると思うのです。なぜこの金額なのか、なぜ下げたくないのか、ここまでなら下げてもいいけど、それ以上は無理など、のちのち交渉するときにも役に立つのです。そして、このように経営を続けていけば必ず自分の会社の決まり事も増えてくると思うのです。様々なサイトでも業者のホームページでも、しつこいくらいに注意書きや備考など、細かく書いてあります。その分だけその会社はお客さまからの質問や依頼前や施工中に言われたことで悩み、取り決めを考えてきたということだと思います。真剣に様々なことを考えていくと、今まで見えなかったことが見えるようにもなってきます。

決して安易に『いくらとれるかな~』ではなく、施工にかかる材料と合わせてどのくらいの責任を負う覚悟があるかで決めるべきなのです。

昔も今も、仕事がないからネットで探してるんでしょとよく言われています。ネットを利用した仕事の取り方を見下し、バカにしている人は非常に多い。でも正直『仕事がないからネットで仕事探してる』という偏見はもはや時代遅れであると思っています。なぜなら仕事を組み合わせるのに最適な働き方であると考えているからです。 個人事業主だけではなく、依頼側にとっても、必要な時に必要な職人に頼める可能性が高くなるのだから、十分利用価値があると思うのですが。そうやって見下したい人は見下し続けて時代から遅れていけば いいのではないかと思います。

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