個人事業主・自営業という働き方

個人事業主・自営業という働き方について、さまざまな感じ方・見られ方をしているということを長年感じておりました。

  • 自分で金額を決められる
  • 働く日も自分で決められる
  • 高い金額にして自由に遊ぶ時間を作れる
  • 遊ぶ金をすべて経費にできる

確かに見方によってはそう感じるのかもしれません。実際にそのようにして過ごしている人もいるかもしれません。しかし、そのようなスタンスで働くことができるまでの間、またはその過程でどれだけのことを考えて、どれだけ努力してきたのかという部分にはあまり注目されないことが多い印象もあります。

独立して何年も続けている人なら皆経験していることと思いますが、「ここまで来るのに相当辛く悔しい思いをしてきた」と感じている人は少なくないでしょう。

個人だからと営業しても一切取り合ってもらえなかったり、法人よりも安い金額だから『詐欺なんじゃないの』『信用できない』と言われたり。食いつなぐためのバイト先では、『バイトしなきゃやっていけないなんて意味ないでしょ』と笑われることがあったり。個人事業主・自営業という立場の弱さや偏見がとても多い事を実感しました。

個人事業主・自営業の仕事の受注方法は大きく分けて2通りかなと思います。ひとつは大手の業者から外注としてある一定の依頼数や金額を交渉などで決め、業務遂行していく方法。もう一つは一般のお客さまから直接受注し施工していく方法です。(いずれも建築業を基準に書いています。)

外注として一定量の仕事を確保でき、金銭的あるいは精神的に「安定」を求める人にとってはメリットのある働き方だと思います。しかし、その「一定量」が生活していくに十分な量である保証はありません。少ない場合には他の業者と新たに契約を結び、同じように一定量の依頼を受けていきます。

休みが多少少なくなっても稼げるならいいじゃない!と思いがちですが、ただ藪から棒に取引先を増やし、依頼を受けていくとどうなるか。

依頼数が少ない時期はそれでちょうどいいくらいでも、依頼が過密になると、いくつかの依頼を断らなくてはいけなくなります。自分の依頼が少ないからといって仕事を下さいと言っていたのに、自分が忙しくなったら簡単に断ってくる「無責任な業者」というレッテルが貼られてしまえば、その人には当然仕事は回ってこなくなります。

生活するために仕事が欲しいという欲と、仕事を上手く回すために業者をしっかり選びたいという欲のジレンマが発生し、精神的には結構きます。取引先1社に依存している場合には、「こいつはウチから断られれば困るから、多少の無理はしてくれるだろう」と舐められ、どんどん無理な要求をしてくる業者が出てくる可能性も高くなります。その過酷な中で仕事を続けることで、かなり精神的に負担がかかっています。

対して一般のお客さまからの依頼は基本的に単発が殆どです。いつ仕事が入るか分からない。月の収入の目処が立ちにくい。そして、お客さまによってどれだけのものをお求めなのかも違い、都度柔軟に対応する必要があります。

外注として業者からの依頼では、ご家財がない場合も多く、養生も最低限に済ませて作業する場合もありますが、お客様が住んでいる状態での作業は、大切なご家財がある状態での作業となり、実際の施工以外でも気を遣う必要がある点が格段に増えてきます。業者同士では伝わる話も、一般のお客さまには砕いてご説明する必要も出てきます。一般のお客さまとの直接のやり取りでの作業・施工は、建築業だけではなくサービス業も混在してくるため、施工だけに集中できないといった点も特徴の一つです。

見積もりから依頼まで数ヶ月かかることもあります。見積もりは出したけども結局他会社に頼むことにしました ということも少なくありません。それでも税金の支払いや固定費は支払わなければならない。そうなると、豪遊などしていられないのです。切り詰めて切り詰めて、仕事がない期間に備えておくなど対策が必要になります。

外注として作業をするのと、一般のお客さまからの依頼で仕事をするのは全くの別物ですが、それが分からず同じように作業し、養生の甘さや説明不足でトラブルになることは非常に多くあるそうです。一般顧客からは金が取れると安易に考えている職人もいます。

確かに自営業でやっている以上は自分で金額を決める事ができます。しかし、金額を決めるということは簡単なことではありません。その作業に対するお客様から見た価値と、実際の作業にかかる材料や人件費、労務費と照らし合わせてどうなのか。作業する側から見れば『手取り・収入』になるのかもしれませんが、お客さまから見れば金額に見合った作業内容をもちろん期待します。取れるだけ取ればいいというふうに決めた金額で作業して、それでお客さまが満足してくださるのか。満足していただくためにどのような配慮が必要で、作業のためにどれだけの下準備が必要なのか。そう考えれば、どれだけ金額を決めることに責任があるのかが嫌なほど理解できるはずです。

安くすれば依頼がくるのか?安くしたところでお客さまは簡単に食いつきません。売り上げが欲しいからとどんどん値引きする人もいますが、果たして安くすることだけがお客さまのためになるのか。そもそも提供金額にどのようなものが含まれて出されているのか。

額面上『¥27,200』という見積もり額だとして、例えば顧客から『じゃあキリ良く¥25,000ね』と勝手に決められた場合、必死に考えて固定費やさまざまな材料を細かく算出して出した金額の場合、『勝手に決めて欲しくない』と思うはずです。たかだか¥1,800と思っても、その金額には材料費やサービスのお金が含まれている金額です。そう考えると、値引きするという事がどういう事なのかが自ずと理解できるのではないでしょうか。

相場がこうだから、という安易な金額を決める人があまりに多く、どのようなことに金がかかっているのかをわかっていない業者は少なくありません。きちんとしたものを提供するためにはそれなりにお金がかかるはずです。お金の重さ=責任の重さなのです。それがわかれば自ずと提供することがどのようなことなのか、どのような形でお客様へ提供すれば良いのかが自分なりに見つけられるのではないかと思います。会社勤めの時には社名で働いていたはずですが、自営業となると自分の掲げた看板と自分自身が看板になります。それがどういったことなのか。 自分で「自分に価値をつける」ことに対して、今一度見直してみると、新たな発見があるかもしれません。

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